第24回メンタルヘルス大会紙上参加

 

                                                                    2002年10月15日

 

 

もちろん社会経済生産性本部の主催なので、企業の管理職や、労組役員のレベルに求められる内容です。一般の方には少々難しいかもしれません。
けれど、しっかり読むことでワーキングパワ−の充電の考え方が、よりよく理解できるでしょう

 



外来が抜けられなくて、今年は出られなかった8月末のメンタルヘルス大会。

職場の産業保健師に参加していただき、資料を眺めました。とりわけ「2002年度版産業人メンタルヘルス白書」が興味深かったです。会社や職場に、時宜にかなった斬新な問題提起をする、社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所の発想は、ぜひとも参考にしましょう。

ポイントは個人の健康度と組織の健康度の関係、そしてメンタルヘルスと生産性です。立場によっては誤解されそうな中身ですが、そうではないですよ。

管理人も、良い仕事が出来る職場は生産性が高く、個人と組織の健康も保たれている、と確信しています。

 

 

 

 

(1)個人健康から組織健康度の向上について

 

小田晋所長の「個人健康から組織健康度の向上」は、従来からの個人レベルのこころの健康指標に加えて、「組織健康度の指標」という概念を提唱していました。

 

個人の健康度指標は@JMIなどの心理テストの尺度、Aアルコール中毒患者数、B事故数、C自殺者数、E犯罪数、F従業員の満足度、G医学的な指標(血中コレステロール値、肝機能、血糖値、HDLコレステロール値など)などが挙げられます。

 

組織の健康度指標は、これはまだ確立されたものではなくモデルですが・・・

@経営指標、A特許件数、B事故件数、C欠勤、D残業時間、E休日出勤、F顧客クレーム件数などが挙げられます

 

ここでのポイントは

@〜Aについては、個人の健康度指標の改善が組織(=職場)の健康度の改善に正の相関をし、B〜Fについては、個人の健康度の指標が組織の健康度指標と負に相関しうることは従来の調査データから推測できる、という小田所長の推測です。

事故や欠勤が多く、残業時間が長く、休日出勤が当たり前な職場では個人の健康度、要するにメンタルヘルスも悪化しているということです。

 

そんな事当たり前のようですが、科学的につめて行き、シンプルな結果を推測するところが、さすが小田所長ですね!

 

要するに、質問紙などで心理テストをやる以前に、事故件数、欠勤、残業時間、休日出勤、顧客クレーム件数などを調べれば、従業員のメンタルヘルスがおおよそ推定できるということです。これはメンタルヘルスの調査をする上で、コストの面から役に立つでしょう。このような統計は多くの職場でなされているでしょうから、それが即、お役立ちなのです。

 

逆に言えば、長時間の残業や休日出勤が常態化している職場では、みかけの売り上げや成果が良く見えても、顧客クレーム件数は多く、従業員のアルコール中毒患者数や犯罪数も多いというわけで、リスク管理上、問題となるわけです。

 

 (2)メンタルヘルスと生産性について

 

ビジネスパースンが自分の会社の生産性を評価(主観にせよ)した場合

「自分の仕事や職場の生産性は向上している」と思っている人は

 

@身体に関するあれこれの症状(愁訴)はなく、生活習慣も安定

A精神面も安定

Bバイタリティーがあって

C仕事になじんだ感じ(適応感)や意欲が高く満足度も高い

 

その反対は、

@疲労が強く、体調が悪い感じ

A抑うつ的で不安定

B自信が持てず消極的

C将来への希望、適応感、帰属意識が不良

 

ということです。

 

*ご注意!

生産性とは「単純な個人の頑張り」ではないことは言うまでもありません。「長時間の残業や休日出勤をする従業員が多い職場」が生産性が良いのではなく、その逆です。こういう行為はワーキングパワ−を消耗して、生産性を低下させるのです。

今そこにいる優れた上司のページをご参照ください。

 

 

 


(3)健康職場モデルについて


産業医学研究所の原谷 隆史先生の 第三章 メンタルヘルスにとっての組織の健康度が素晴らしいといえましょう。

以下、やや長くなりますが引用(著作権はもちろん)しますと・・・

 

*ご注意! 以下の長い引用の著作権はもちろん社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所と原谷先生にあるので、二次利用はそちらの許可を取ってください。


 

<健康職場モデル>

 最近、健康な職場組織、健康な会社といった組繊の健康という新たな概念が示されている。米国国立職業安全保健研究所(NIOSH)では、「健康職場」〈Healthy Work Organization)という概念を用いたモデルを提唱した。

 これまで労働者の健康と組織の業績は相反すると一般的には考えられていたが、労働者の健康や満足感と職場の生産性や業績を両立させることは可能であり、むしろ両者には相互作用があり互いに強化することができる。組織としての健康を考えると、働く人の健康や満足感とともに職場の生産性や業績も視野に入れて、組織の健康度を考える必要がある。労働者が心身ともに健康であり、仕事に満足して意欲的に働くことができるような組織では、労働者の能力を十分に発揮することができ、生産性や創造性が高まり業績にいい影を与えることが期待できる。仕事の業績が良ければ、賃金や処遇にも反映され、労働者の労働意欲も高まり、心身ともにはつらつと仕事をこなすことができる。劣悪な労働条件で過重な労働負荷では、心身の健康を損ねてしまい、労働意欲や作業能率も低下してしまうが、適度な仕事の負荷で効率よく健康的に仕事をすれば、労働者の健康や満足感と職場の生産性や業績を両立させることが可能となる。

 また、組織の健康には、管理方式、組織風土、経営方針といった組繊特性が重要な要因となる。これまでの職業性ストレスの研究では、作業量や作業ヘースなどの作業特性を中心にストレツサーを捉えていたが、今後はその背後にあるマクロな組織特性に注目する必要がある。

 

例えば、長時間労働という問題は、いい加減な労働時間管理、残業や休日出勤をするのが当然で休痕を認めないような組織風土、法規や従業員の健康を軽視する経営方針といった組織特性が影響しており、労働者個人の力では作業量や労働時間を減らすことは困難である。組繊特性は、組織によって大きく異なり、現在の日本企業では大きく変わりつつあり、労働者の健康への影響には注意が必要である。このような組織特性を含めて組繊の健康を考えて職業性ストレス対策を実施すれば、労働者の心身の健康増進とともに職場の生産性や業績を高め、労働者と企業の双方にとって利益となる。

 この健康職場という概念は、我が国の快適職場の形成や労働者の心身の健康増進といった活動をさらに発展させるのに有用と考えられる。快適職場では、作業環境の管理、作業方法の改善、疲労回復施設の整備などによって職場環境を快適にすることを目指している。これに対して、健康職場では、職場環境だけではなく健康や業績などを含めて組織として良好な状態を目指す。

写真は夕方の千本浜より



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